人事労務においては、その多くが労働基準法その他の法律と関連してきますがこれまで法務部門が関与してくることが少なく人事部門が対応して炎上すると法律事務所に相談するというパターンが多かったように思います。
最近は、コンプライアンスの中で労務問題が大きく取り上げられることになりましたが、人事担当者や法務担当者にあまり知見がないのではないでしょうか。
その領域を埋めるために出版された人事労務の法律問題 対応の指針と手順を拝読させていただきました。
【書評】
人事労務の担当者が、人事労務についてマニュアルとして参考にするというコンセプトで本書は作成されており
という形で、労働法について専門知識がなくても人事労務担当者の基礎知識があれば、ある程度理解することができるように構成されています。
また、労働関連は判例法理によって形成されている部分が多いため、複雑になっていますが、懲戒処分において一定の事例に関する相場観を示しているところは他の類書にはない試みかと思います(通勤手当の不正受給・私用メールなど)。
全体的には理論面には深入りをしないというスタンスで書かれていますが、実務的に問題となるところ、具体的には
- 休職について普通解雇の猶予であること(普通解雇に該当しうるもの以外は適用できないはず)
- 人事上の措置としての自宅待機は限られた期間のみ認められ賃金を支払う必要があること
- 第三者からのハラスメントに対して被害者とされる人物の意思を確認の上で対処する
- 賞与については算定基準が明確に規定されている場合以外は具体的な算定がなされない限り請求権が発生しない
などにはしっかりと触れられていることから、対応方針を考えるにあたり人事担当者が相談を受けた場合に調べる書籍としては良いと思います。
そもそも人事労務の問題は、トラブルになって初めて法務に相談が寄せられることになるため、対応が後手に回ることが多いです。
そのため、早めの相談も必要ですが、全てを法務部門に相談することも現実的ではないので対応方針について自部門で理解できるように本書程度の知識を持ったほうがいいと思います。