企業法務を担当していると人事から受ける相談に懲戒処分(そもそも処分に値しないものもありますが)の可否というものがあります。
中小企業だと社長の専権でえいやっとやることも多いのでしょうが、一定の規模になってくると慎重にただ処分はしたいという事態が生じます。
そんな雰囲気を忖度して適切に対応しなければならない人事・法務担当者のための書籍が出版されたので拝読いたしました。
【書評】
懲戒処分のQ&Aに特化した本書は、企業内で問い合わせがあり得る具体的な設問86から構成されており
Q&A形式の書籍としては珍しく、質問に対して「ズバリ回答」という形で弁護士からの端的な回答が掲載されており、Q&Aの書籍でありがちな結局結論はどちらなんだろうという疑問が生じないところに工夫が見られます。
懲戒処分が可能かどうかにとどまらず、どの程度の懲戒処分が妥当なのかという相場観も提供しているので人事・法務の担当者にとっては当たりが付けやすく使いやすい書籍です。
事例については過去の裁判例を基に組み立てているようですが、相談として多く寄せられる
- 遅刻・無断欠勤に対してどのような懲戒処分が可能か
- 不適正な経費処理についてどのような懲戒処分が可能か
- 私生活上のトラブルについて懲戒処分が可能か
といった古典的な課題から、社会の情報通信技術の向上や働き方改革に合わせて
などといった新たな課題も取り上げられています。
個人的には
- 懲戒処分は意思表示なので本人に到達することが効力発生要件ですが、本人が行方不明な場合には公示の手続きを取らなければならないので自然退職などの規定を追加しておくこと
- 懲戒処分の有無を公表する場合には氏名を明らかにせず事案を抽象化することが適切であること(人事院が定める懲戒処分の公表指針)
- 規律が緩んでおり規則が守られていないことを放置している場合には規則違反が生じても厳しい処分が否定される場合があること
あたりに注意したいと思いました。特に最後の規則はあるけどもともと守られていないというパターンは意外と多く、それにもかかわらず何か事案が発生すると処分したがる人たちがいます…
いずれも具体的な事例を取り上げているため「ズバリ回答」部分を読めば、抽象的な質問に対して法律事務所から意見をもらうのと同程度の理解ができるため担当者は一冊買うべきだと思いました。
懲戒処分の実務必携Q&A―トラブルを防ぐ有効・適正な処分指針─
- 作者: 三上安雄,増田陳彦,内田靖人,荒川正嗣,吉永大樹
- 出版社/メーカー: 民事法研究会
- 発売日: 2019/01/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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