仕事が忙しくなかなか記事を掲載することが出来ず久しぶりの更新になります。
この三か月も複数の映画を観に行くなど最低限の時間は確保していましたが、ひと段落したので緩く再開していきたいと思います。
【作品概要】
作品名:「HUMAN LOST 人間失格」
公開日:2019年11月29日
あらすじ
- 「恥の多い生涯を送って来ました」。医療革命により、“死”を克服した昭和111年の東京――人々は体内の“ナノマシン”とそれらを“ネットワーク”により管理する“S.H.E.L.L.”体制の支配により、病にかからず、傷の手当を必要とせず、120歳の寿命を保証する、無病長寿を約束された。しかし、その究極的な社会システムは、国家に様々な歪を産み出す。埋まることのない経済格差、死ねないことによる退廃的倫理観、重度の環境汚染、そして、S.H.E.L.L.ネットワークから外れ異形化する“ヒューマン・ロスト現象”……。日本は、文明の再生と崩壊の二つの可能性の間で大きく揺れ動いていた。大気汚染の広がる環状16号線外(アウトサイド)――イチロク。薬物に溺れ怠惰な暮らしをおくる“大庭葉藏”は、ある日、暴走集団とともに行動する謎の男“堀木正雄”とともに特権階級の住まう環状7号線内(インサイド)への突貫に参加し、激しい闘争に巻き込まれる。そこでヒューマン・ロストした異形体――“ロスト体”に遭遇した葉藏は、対ロスト体機関“ヒラメ”に属する不思議な力をもった少女“柊美子”に命を救われ、自分もまた人とは違う力を持つことを知る――堕落と死。生と希望。男は運命に翻弄され、胸を引き裂き、叫ぶ。怒り。悲しみ。憐れみ――絶望に呑みこまれ、血の涙とともに大庭葉藏は“鬼”と化す。貴方は、人間合格か、人間失格か――
【感想(ネタバレあり)】
太宰治の「人間失格」をモチーフに制作された本作は、葉蔵の「恥の多い生涯を送って来ました」という有名一文から始まります。
太宰治の「人間失格」は、人の気持ちを理解することが出来ない葉蔵の幼少期(第1の手記)、竹一・堀井と出会い世間の非合法とされているものにはまり堕落していく時期(第2の手記)、ヒラメに保護されたのち美子と出会うものの絶望になり病院に収容される(第三の手記)で構成されています。
この時点で本作の結末が決してハッピーエンドではないということを理解できるはずです。
本作でも
- 笑うことが出来ず父親に殺されかけた葉蔵が、竹一・堀井により堕落していくという過程
- 人類の未来を信じているヒラメの美子と心を通わせるものの美子が人体を差し出し葉蔵を守ることで葉蔵自身が絶望するという過程
が描かれており、比較的暗い内容です。
本作は医療革命とビックデータにより、人類を生かしておく時代が始まったのちに
- 健康で長寿であることが幸せであるというシステムから離れていくという「ロスト」
- 人は死ぬことで生きるということを理解するという意味で、ヒトの本来の役割からの「ロスト」
- 進んだ科学から人類が振り落とされるという「ロスト」
など、葉蔵という内向的なキャラクターを通じて「人間」とは何か考えさせられることになります。
本作ではビックデータをもとに文明曲線という文明の行く末を予測することが行われていますが、葉蔵、美子、堀井は変異体としてのアプリカントとしてそれぞれの価値観に基づき行動しますがいずれも現状維持ではなく何らかの未来を目指しています。
現状を維持していく長寿の老人たちと、それぞれの価値観に基づく行動は、現代の日本における年長者と若者の見えない対立軸を感じさせることになります。
最終的に美子を含め登場する主要な女性キャラクターは全員死んでしまうのでその目線で見ると結構伏線があります。
偶然かもしれませんが美子の声優である花澤香菜さんの演じるキャラクターが、私の観るアニメだといつもアンハッピーなのは気のせいでしょうか。