新型コロナウィルスの影響で在宅勤務も増え、ドタバタしていましたが秋ぐらいからぼちぼち読書を再開していますのでブログでも書庫を再開していこうと思います。
M&Aや ベンチャー投資などに関わっていると時々外為法の対内直接投資・資本取引に関する手続きをすることがあります。
特に2019年5月・11月の改正で非上場企業に関する対内直接投資に関する届出範囲が広がり、この1年間で何度も実施する機会を得ました。
対内直接投資も資本取引も結構マイナーな規制なのでこれまでその部分のみを取り上げている書籍はなく、日銀のQ&Aを読んで電話するのが基本的な対応方法でしたが、アンダーソン・毛利・友常法律事務所から「M&A・投資おける外為法の実務」が出版されましたので拝読してみました。
【書籍名】 「M&A・投資おける外為法の実務」
【出版社】 中央経済社
【出版日】 2020年12月5日
【講評】
外為法は外国との為替取引・貿易について規制をしていますが、対内直接投資をメインとしているわけではなく貿易で特定の貨物の輸出入、特定の国・地域を仕向地とする貨物の輸出、特定の国・地域を原産地・船積地とする貨物の輸入などを行う場合が規制の中心になります。
外為法についてはそれほど専門書もなく詳説 犯罪収益移転防止法・外為法(第4版)が調べる本としては一番詳しいのではないと思います。
本書においては、対内直接投資の届出が必要になる基準など実務的なエッセンスを求めていました。
実際に読んでみると
- 対内直接投資については条文・日銀のQ&Aを呼んでも全体像が分かりにくいところ条文構造を図化するなど全体像を分かりやすくする努力がなされている。
- 後半部分でM&Aなどの具体的な事例をもとにどの時点で手続きをする必要があるのかについて時系列で分かるようにしている。
- 外為法の届出には、待期期間があるところ、第4営業日に短縮される可能性があることなど表面的ではなくガイドラインなどの内容を反映している(なお、日銀のQ&Aでは原則2週間に短縮され、問題なければ4営業日になるとも読める)
など初めて対内直接投資に関わる担当者が読むには、日銀のQ&Aよりも読みやすくメリットがあると思います。
ただ既に実務的に対応した経験者からすれば
- 投資対象が届出対象となる指定業種に該当するかどうかが知りたいところであるものの、その部分は法律事務所に相談をという形で明確な基準や経験則などが示されていない
- 法改正については簡単に触れているのみですが、SaaSなどのクラウドサービス(ソフトウェア)について指定業種に該当するかどうかについて省令を踏まえたうえでも疑義があり、実務上は保守的に届出をしていることが多いと思うのですが、このあたりについては触れられていないなど踏み込んだ記載がほとんどない
などの不満があります。
本書の帯にも投資・M&Aを担当する経営企画部門の担当者にとされているように、法解釈よりも概説書という形になっています。
実務でかかわっている者からすれば現時点では2600円の価値があるかと聞かれると悩ましいところですが、切り口自体はマニアックな需要があるはずなので今後もっと踏み込んだ改訂がなされることを期待したいと思います。