RKの備忘録

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【書庫】「M&A契約研究ー理論・実証研究とモデル契約条項ー」(有斐閣)

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12月に出版された際に気にはなっていましたがビジネスロージャーナルで、M&Aの契約実務(第2版)の上級編取り上げられておりましたので購入してみました。

 ※ 本書は論究ジュリストでの連載をまとめて一部加筆したものですが、東京大学の藤田先生と複数の実務家による対談のため論究ジュリストとほぼ同一の内容です。

 

【書評】

M&Aの契約に関する書籍といえばM&Aの契約実務(第2版)M&A契約――モデル条項と解説がありますが、本書はM&Aについて実績を積んだ弁護士がモデル条項をもとに実務上での条項の意義や感覚を報告とそれに基づくディスカッションという形で展開しています。

 

本書は、今後の実務における理論・モデルを確立するための研究の一環として位置づけられているため、M&Aの契約で使われる用語(例えば、アーンアウト・ファイナンスアウトなど)についてはほとんど説明がなく、かつ、M&Aの経験者を読み手として想定していることからモデル契約条項と言いながらも上級者向けのモデルとなっています。

そのため、初心者では迷子になるので決してお勧めできるものではありません。

 

ただ、M&Aについて何度か実務経験がある担当者(特に詳しく知りたい人)からすれば、

  • MAC条項について、日本国内においては誓約条項(コベナンツ)や表明保証条項にほぼ吸収されるので独立して意味を持たないのではないか(米国ではMAC条項が裁判上認められないことが多い)。
  • 表明保証の時点は、日本だと契約締結時・クロージング時の2度同じ内容で行われているが、欧州だと多くは契約締結日(契約締結後のリスクは買主)、米国だと契約締結時・クロージング時の2回するのであれば内容を分ける(クロージング日までに調整する)ことが多い
  • 最善努力義務(best efforts)と合理的努力(reasonable efforts)の違いは日本法上はほとんど差がない。
  • 完全合意条項を定めたとしても、日本の裁判所だと関連証拠から条文を解釈する可能性が高く、条文の分離解釈通りの判断となるとは限らない。
  • 補償対象として「起因又は関連し」と記載した場合に「関連」とは事実的因果関係があれば十分のように見えるが、相当因果関係とあまり変わらない可能性がある。

など興味がわく部分も多く過去の経験と照らして「なるほど」と思う部分も多数見受けられました。

また、契約条項のみではなく、海外の先行研究を基にブレークアップフィーの相場や各条項(MAC条項や価格調整など)の採用動向が記載されている点も日本法にしか触れない私にとっては大変勉強になりました。

 

日本国内では、裁判所で争われる事例が少なく、また契約書の開示が少ない(ほとんどない)ため、残念なことに経済学的な分析や平均値などが明らかになることがありません。

そのため、日本国内での議論に引き直すと消化不良の部分もありますが、M&Aの領域について理論的な研究がこれからなされていくのであれば5年~10年の期間で変わっていくのでしょう。

それぐらいM&A領域の契約や法律解釈が日本国内において未成熟であることを感じさせていただきました。

M&A契約研究 -- 理論・実証研究とモデル契約条項

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