最近はM&Aや事業承継の案件が増えているのか、法務関係の書籍の出版も相次いでいます。
M&Aと聞くと対象となるのが一定の規模の企業(大手とは限りませんがそれに近いもの)を想定している場合が多いわけですが、実際には事業承継やベンチャー買収といったものが多いわけですので表題にひかれて購入しました。
【書評】
事業承継・ベンチャーに対する出資(マイノリティ)を対象として、契約条項やスキームに簡単に触れたうえで、対象会社の状況や交渉のステージにおいて生じうる課題(設例)に対して法務アドバイザリーとしての対応方法を示すことに重きを置いています。
37の設例を用いて対応策を検討していますが、中小企業を対象会社とする場合に実務上で生じる
- 株券発行会社であるにもかかわらず、過去に株券を発行することなく株式譲渡がなされている(しかも譲渡承認手続きが行われていない)場合
- 株主名簿上に従業員などの名義上の株主が存在する場合
に対する対応策(実際にはどの方法でも法的なリスクはゼロにはならないのでリスクを低減させる)について示唆しています。
また、ベンチャー投資は、リードインベスターが交渉したうえで、フォロワーはその条件に従って投資するか否かを判断するのが原則です。ただ、ベンチャーに対する出資においても、慣れていない企業が出資する場合には
- マイノリティ出資にもかかわらず、過度な事前同意や制限を設ける
- 複数社が同時に出資するにもかかわらず独自の条件(条文)にこだわる
場合がみられます。このような交渉は、対象会社において他の株主(VC)との調整が生じるために難しいことが書かれているなど実情に即した内容になっています。
また、
- リードインベスターは投資家であり対象会社に詳しいわけではなく保証などに限界があること
- 事業のキーパーソンが存在しており、同人が退職すると競争力がそがれるためリテンション策が必要となること
といった課題にも設例で触れられており、実際に悩ましい部分について答えようとしている書籍だと思いました。
中小企業のM&Aにおける課題は契約書だけで解決できるものではない場合が多く、大変悩ましい部分が多いです。その意味では、悩ましい部分について、数を取り扱っている弁護士でもやっぱり悩ましいということが分かる本書は貴重なものかもしれません。