「M&A契約ーモデル条項と解説」と合わせてM&Aのリスク管理について勉強するために合わせて購入しました。 旬刊商事法務に連載していた論文(論考)を取りまとめたものになります。
(書評)
日本におけるM&Aの契約実務が、欧米の契約理論を後追いで取り入れていることを前提にして、
の各項目について欧米での議論と日本の契約実務への影響の可能性について検討しています。
- 表明補償保険は、表明保証違反に関する賠償の手段として欧米で発展してきたものの、一定のFeeがかかるのと日本国内ではM&Aに関する訴訟が少ないことから定型化されておらず現時点での活用の可能性が少ない(アメリカの統計をもとに考えると数十億の案件がミニマムのサイズのようです)
- MAC条項については、一般的な経済情勢の変更などは考慮に入れることが出来ないというのがベースの考え方であり、活用できる場面は意外と少ない(同時多発テロでも全員が被害を受けるのでこの種のものはカバーできない)
- 独占禁止法の手続きが完了しない場合に、既にM&Aを公表したことにより、売主側でもディールが断念すると風評被害などが生じることからリバース・ブレイクアップ・フィー(違約金)を設けることがあるらしい。買主側でしか達成できない誓約事項がある場合にはリバース・ブレイクアップ・フィーは有用かもと思いました。
- 価格調整として、基準時をベースにクロージング後に調整するという方法がとられることもありますが、英国でみられるような価値の流出の場合を除き調整しないという方法もあるようです。なお、日本国内ではそもそも価格調整条項自体を置かないことも多いようです。
- 売主が個人の場合に、表明保証などの損害賠償時の賠償余力を担保するためにエクスローとして一部の金額の支払いを留保することが行われています。アメリカでは、金融機関がエクスローとして金額を受け入れ買主の与信を担保していることが多いようで、国内でも信託の方法により行うことが可能
総じて欧米ではM&A契約についても一定のものについて開示が義務付けられていたり、様々な投資家が存在してることから、M&Aに関するインフラが整っていることから議論が活発なようです。
日本でもM&A自体は活発になってきましたが、公表事例が少ないので定型化が進まないしFeeが高い(妥当性が評価できない)という状況が生じています。このあたりはグローバル化の中でいずれ解消されないかなぁと思ったりしています。